「介護リフォーム」を語る資格はあるのか?住宅営業が“知識を語る”時代から、“関係を設計する”時代へ

執筆:清水大悟(清水英雄事務所株式会社 代表取締役/住生活産業コンサル)

介護・バリアフリーのリフォームは「補助金制度を知っておくべき」と語られることが多いです。
しかし、実際の営業現場で、その知識をどれだけ話したところで、顧客に信頼されるでしょうか。
住宅営業は医療や介護の専門家ではありません。
これからの時代に必要なのは、“制度の説明”ではなく“暮らしの設計”という発想です。
ここでは、清水英雄事務所の視点から「住宅営業が語るべきバリアフリー提案の本質」を整理します。


よくある「年代別リフォーム提案」の限界

“年齢や身体状況に合わせたリフォーム”という話に、顧客はもう飽きています。

住宅業界ではよく、こうした記事を見かけます。
「60代には段差解消」「70代には手すり設置」「介護を見据えた浴室のリフォームを」――。
確かにその年代に向けたセールストークとしては正しいですが、営業マンがそれを熱心に語ったところで、「あなたに言われても伝わらない」というのが多くの顧客の本音です。

営業担当者は介護や医療のプロではありません。
専門知識を中途半端に語るよりも、住宅づくりのプロとして何を提案できるかが問われています。
たとえば「引き戸が良い」と語るにしても、それがバリアフリーのためだけではなく、現代ではむしろ“どの世代にとっても使いやすい標準仕様”であるという説明のほうが納得感を得られます。

場所によっては建具を取り付けない選択肢もあります。
海外の住宅では、壁そのものを柔軟に使い分けながら生活の形を変えていく事例も多く、“生活を変えながら住み続ける”という思想がベースです。

POINT
・知識ではなく“立ち位置”が信頼を生む
・営業は医療の代弁者ではなく、“暮らしのデザイナー”
・説明ではなく共感。顧客が「自分の暮らし」として考えられる話を


段差をなくすだけでは終わらない。ユニバーサルデザインの再定義へ

安全や段差の配慮は“特別対応”ではありません。
海外では、すでにそれが「設計の前提条件」になっているのです。

むしろ海外では、こうした要素は“基本設計の一部”として織り込まれており、日本のように「高齢者のための特別設計」として扱われていません
段差の少ない動線、広めの通路、可動式家具、引き戸の採用。
これらは「介護対応」ではなく、「誰が住んでも快適な家をつくるための標準仕様」なのです。

都市部のマンションでは、若年層・ファミリー層・シニア層が共に暮らすことを前提に、汎用性の高いプランが一般化しています。
住宅は最初から多様な世代が入居することを前提にデザインされ、“誰でも使いやすい”状態を標準としています。

一方、日本では長く「バリアフリー=高齢者のため」と切り分けて語られてきました。
そのため“対症療法的”な発想に偏り、資産価値や暮らしの柔軟性が置き去りになっています。

かつて日本でも“ユニバーサルデザイン”という言葉が盛んに使われていましたが、今ではその理念がどこにあるのか分からないほど現場から姿を消してしまいました。
しかし海外では、住宅のストック市場を支える思想としてこの考え方が息づいています。

たとえばイギリスの「ライフタイムホームズ(Lifetime Homes)」は、
“生涯にわたって暮らせる安心と汎用性”を設計段階から備えるための基準です。
年齢や身体状況を問わず、誰もが快適に暮らせる空間をどう実現するか。
それは「高齢者対応」ではなく、「全世代のための住宅価値の設計」なのです。

POINT
・海外ではバリアフリーは“特別対応”ではなく“標準設計”
・ユニバーサルデザインは理念ではなく、住宅価値の基準
・ストック市場の成熟=“どの世代でも住み続けられる家”の思想


制度説明ではなく“ライフプラン提案”へ

補助金や減税の知識を語っても信頼は得られません。
顧客が聞きたいのは「自分の未来がどう変わるか」です。

制度や補助金の説明は、営業の入口にはなりますが、それをメインに据えると顧客は「制度を説明してくれる人」としてしか見なくなります。
大切なのは、「制度をどう活用して、どんな暮らしを実現できるか」という話をすることです。

介護リフォームの提案は、単に安全のための改修ではなく、「これからどんな暮らし方をしていくのか」というライフプランと不可分です。
営業が顧客の将来像に踏み込み、家族構成や介護リスク、将来の住み替え可能性などを“人生の設計”として一緒に考える姿勢を持てるかどうかが分かれ目になってきます。

この段階で初めて、補助制度や減税の話が“現実的な選択肢”として響きます。
制度を語るのではなく、制度の向こうにある「生活の安心」を語ること。
それができる営業は、工事提案の域を超え、顧客の人生に関わる“相談者”へと立場を変えていくのです。

POINT
・制度説明で終わらせず、“暮らしの導線設計”へ
・顧客が聞きたいのは「安心して暮らせる未来像」
・ライフプランと住宅提案を一体で語れる営業が強い


住宅営業は“取り付け業者”ではなく、“関係設計者”へ

提案とは“工事内容”ではなく、“信頼の設計”。
営業の立場を変えることで、リフォーム市場は進化します。

バリアフリー提案を“取り付け工事”として扱う業者は多いですが、顧客が求めているのはモノではなく、“この先の安心を誰とつくるか”です。
つまり、営業の本質は「制度や設備を説明する人」ではなく、「暮らしの変化を一緒に描ける人」になることです。

住宅営業がライフプランと関係性を軸に提案するようになれば、バリアフリー工事は“高齢者のための改修”ではなく、“資産価値を高めるリフォーム”へと変わります。
そして、顧客との関係は一度きりの受注ではなく、10年・20年単位のライフサイクルパートナーシップに発展していくのです。

POINT
・バリアフリー工事=“関係価値”を高める提案領域
・制度知識ではなく、生活設計を支える立場へ
・営業は「売る人」から「生涯の伴走者」へ進化する


まとめ:価値観を転換しよう。住宅営業は“ライフプランの伴走者”へ

「バリアフリーリフォームは“高齢者向け”ではない」
「“全世代が自分らしく暮らせる住宅”こそが、次の価値基準」

これからの住宅市場では、「特定層向けリフォーム」という発想そのものが古くなります。
顧客自身が暮らしをデザインし、家を編集しながら生きる時代において、バリアフリーは“特別な仕様”ではなく、“誰でも住み続けられる設計”として資産価値の前提に位置づけられていきます。

そして、住宅営業は「制度説明者」ではなく、「ライフプランの伴走者」へ。
顧客の安心や暮らしの継続性を支える提案こそが、これからの差別化であり、住宅会社の社会的存在意義となります。

POINT
・バリアフリー=全世代のための住宅価値
・住宅営業は“制度提案”から“人生提案”へ
・暮らしの未来を一緒に設計する関係が、信頼と受注を生む