ブランディングが出来ている工務店は1割未満 “理念”だけでなく“構造”で信頼を築く時代へ
執筆:清水大悟(清水英雄事務所株式会社 代表取締役/住生活産業コンサル)

「ブランド」は語るものではなく、続ける仕組みのこと
いまや多くの工務店が「ブランドづくり」を意識しています。
SNSやホームページの整備、ロゴの刷新、キャッチコピーの統一。
確かにこうした取り組みは大切ですが、それだけで“ブランド”が生まれるわけではありません。
実際のところ、本当の意味でブランディングが機能している工務店は全体の1割にも満たないと言われています。
その違いは「理念があるかどうか」ではなく、理念を支える“構造”があるかどうかにあります。
見た目や言葉を整えるだけのブランドづくりは、一瞬の印象にすぎません。
対して、信頼され続ける会社には、長く安心を提供し続けるための仕組みがあります。
それこそが「構造としてのブランド」です。
安心・安全を“継続的に”届けられることがブランドになる
ブランディングという言葉を聞くと、理念や想いを発信することを思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、顧客が本当に求めているのは“想い”よりも“継続性”です。
いまの顧客が工務店に期待しているのは、
「家を建ててくれる会社」ではなく「10年後も相談できる会社」であること。
つまり、続けられる会社=信頼できる会社という関係が成り立っています。
どれだけサービスやサポートが丁寧でも、会社自体が続かなければ意味がありません。
ブランディングとは「理念を掲げること」ではなく、
“未来を再現できる仕組み”を持ち続けることだといえます。
「顧客体験」から「リテラシー体験」へ
時代が求めるブランドの形は変わった
数年前まで「顧客体験」という言葉がよく使われていました。
VRによるプラン提案や、DIY体験、OB感謝祭など。
これらは顧客と関係を築くうえで有効でしたが、2025年の今では少し古い手法になりつつあります。
なぜなら、顧客が求めている“体験”の中身が変わっているからです。
いま必要とされているのは「リテラシー体験」――
つまり、家づくりを通じて“正しい判断力”を得る体験です。
たとえば、お金や資産、補助金、税制、相続など、暮らしを支える知識。
これらを学びながら家づくりを進めるワークショップや勉強会が増えています。
顧客は“楽しさ”ではなく、“納得”を求めているのです。
先行して成果を上げている会社は、こうした知識共有を体系化し、
「家を売る」のではなく「未来を一緒に考える場」を提供しています。
この姿勢こそ、これからのブランド体験に求められる本質だといえるでしょう。
継続できる会社は、学びを止めない
1割のブランディングができている会社に共通するのは、
“学びを止めない姿勢”を持っていることです。
省エネ基準の改正、GX(グリーントランスフォーメーション)政策、AIの活用、金融制度や税制の変化――。
これらの情報を常にキャッチし、社内で共有し、提案に反映する。
この“更新の仕組み”こそがブランドの基盤です。
理念を語るだけでなく、変化を取り込む力を構造として持っている。
だからこそ顧客からの信頼が積み重なり、ブランドが生き続けるのです。
「想い」より「仕組み」。語るより、動かす。
「誠実」「地域密着」「まじめな家づくり」。
こうした言葉はどの会社でも掲げています。
けれども、それだけでは顧客に選ばれる理由にはなりません。
いま必要なのは、“理念を構造に落とす”という発想です。
たとえば、
・省エネ性能の提案を自社で完結できる仕組み
・補助金や制度を顧客に代わってサポートできる体制
・施工・引き渡し・アフターをデータで一元管理する運用
こうした仕組みそのものがブランドの証明になります。
言葉ではなく、行動と仕組みの一貫性が信頼を生むのです。
“続く会社”こそ、地域のブランドになる
ブランドとは「印象」ではなく「継続」です。
10年後も同じ場所で安心を届け続けられる会社、
それが地域における本当のブランドです。
顧客は、家を建てられる会社を探しているわけではありません。
「家や不動産について、いつでも相談できる存在」が近くにあることを望んでいます。
そしてそれは、理念ではなく“仕組み”と“継続力”によってしか実現できません。
まとめ:理念を語るより、構造を磨く
ブランディングが出来ている工務店は1割未満。
そのわずかな会社が実践しているのは、“特別なストーリー”ではなく、再現性のある仕組みづくりです。
理念を掲げることは悪いことではありません。
しかし、理念だけでは動けない。
構造がなければ続かない。
そして、続けられない会社には、信頼もブランドも育ちません。
“語る会社”は一時的に注目されます。
しかし、“動かし続ける会社”だけが、静かに選ばれ続けていくのです。