高市政権になって建築業界にどんな影響があるのか?

執筆:清水大悟(清水英雄事務所株式会社 代表取締役/住生活産業コンサル)

高市政権が誕生し、経済政策の舵が再び公共投資寄りに切られました。
国土強靭化、住宅リフォーム支援、耐震改修の促進など、建設業界にとって“表面的には”追い風が吹くように見えます。
しかし現場の感覚で言えば、それが劇的な変化をもたらすことはありません。
むしろ、政治の動向に関係なく業界構造はすでに変化の只中にあります。

AIによる設計自動化、建設資材流通のトレーサビリティ義務化、AIO(AI検索最適化)による集客構造の変化など。​
業界の根幹を揺さぶるのは、法制度ではなく「情報技術と社会構造の変化」です。


変われない業界の構造的問題

建築業界は変化への意識が高いように見えて、実際には“変わらない力”が極めて強いです。
特に近年顕著なのは、若い世代に事業承継が進んでも、会社のやり方そのものは昔のままという現象です。
新しい世代が先代よりも保守的という、逆転現象が起きているのです。

理由は単純で、「失敗できない」という意識が根底にあり、先代が築いたブランドや経営基盤を守るために、若手ほどリスクを避け、変化よりも“継続”を選んでしまう傾向にあります。
その結果、改革のチャンスを自ら閉ざしてしまっています。

一方で、変化に成功している企業には共通のパターンがあります。
若手が舵を取り、先代が後方から助言・人脈・知見でサポートする「二世代運営型」です。
単なる世代交代ではなく、経験と新しい発想を融合させた“集団的な更新”ができているかどうか。
そこが分岐点になっています。


情報過多時代の判断力

現代の建築業界は「情報過剰社会」に直面しています。
補助制度、国策、AI、SNS、脱炭素、ZEB…。情報は多いが、「自社にとって価値のある情報」を選別する能力が問われています。
今後は「収集よりも取捨選択のセンス」が経営力と直結していくでしょう。

SNS発信に力を注いでも、AI検索(AIO)による情報取得が主流になりつつあり、ウェブ集客の構造が根本から変わっています。​
つまり、“表面的な進化”では通用しないのです。
今問われているのは、情報の取り扱い方そのものを再構築することです。


改革の仕方を知らない世代

若手は他社・商社で経験を積んでも、「改革の方法」そのものを学んでいません。日々の業務遂行はできても、それは過去のオペレーションに過ぎないのです。
DXや新規事業を語る前に、まず「変化の仕方を設計する力」が求められています。

業界の中で“若い発想”がすべて良いわけでもありません。
改革とは「新しいことをやること」ではなく「古い仕組みを再定義すること」だからです。
そのためには経営層から現場まで、組織全体で考える文化の醸成が必要になります。


問われているのは「政権」ではなく「構造」

高市政権は確かに経済の土台を動かすでしょう。
しかし、業界の根底を変えるのは政権ではなく、人と企業の在り方です。
変化の時代に、変わらない組織は「意図せず取り残される」。
政治が風を吹かせようと、舵を切るのは各企業自身なのです。