空き家・既存住宅市場で起きている3つの変化
執筆:清水大悟(清水英雄事務所株式会社 代表取締役)
新築住宅市場の縮小を見据え、「これからはリフォームを始めたい」「既存のリフォーム事業をさらに強化したい」と考える住宅会社や工務店が増えています。
実際に、当事務所へ寄せられる相談でも、新築事業に代わる新たな受注の柱として、リフォームやリノベーション、空き家活用へ関心を持つ会社が非常に多くなっています。
しかし、現在起きている変化は、単に新築需要の一部がリフォームへ移っているというだけではありません。
消費者が既存住宅を選ぶ割合が高まり、既存住宅を購入した世帯の多くが購入前後にリフォームを行っています。
さらに、国の空き家政策も、危険な空き家を解体・除却するだけではなく、空き家になる前の相談や管理、流通、活用までを支援する方向へ広がっています。
一方で、リフォーム市場へ参入すれば、それだけで新築事業に代わる収益の柱ができるわけではありません。
細かな営繕・修繕や設備交換を中心としたリフォーム事業では、一件ごとの売上や利益が小さいにもかかわらず、現地調査、見積もり、職人の手配、施工管理などに多くの時間がかかります。
さらに、ホームセンターや家電量販店、リフォーム専門会社などとの価格競争にもなりやすく、地域工務店が市場優位性を確保することは簡単ではありません。
今回は、国土交通省が公表した事業や調査資料をもとに、空き家・既存住宅市場で起きている3つの変化を整理します。
変化1 既存住宅の流通シェアが約4割まで上昇
国土交通省の資料によると、住宅流通量に占める既存住宅のシェアは、2013年の30.8%から、2023年には40.4%まで上昇しています。
戸建て住宅に限って見ても、既存住宅の流通シェアは、2013年の22.4%から2023年には30.5%まで上昇しました。
この数字は、日本の住宅市場が新築中心から既存住宅中心へ、完全に変わったことを示すものではありません。
新築注文住宅や新築分譲住宅は、現在も住宅取得における重要な選択肢です。
一方で、既存住宅も、一部の消費者が価格だけを理由に選ぶものではなく、新築と比較検討される十分に現実的な選択肢として台頭していることを示しています。
その背景として、まず挙げられるのが新築住宅の建築費上昇です。
国土交通省の資料では、2015年1月から2024年7月にかけて、木造住宅の建築費指数が99.8から138.5へ上昇しています。
建築費指数とは何か
建築費指数とは、建築物の工事価格がどの程度上昇または下落しているのかを把握するための、一種の物価指数です。
今回使われている建築費指数は、一般財団法人建設物価調査会が公表しているもので、2015年の平均的な工事原価を「100」として、その後の資材費、労務費、設備工事費などの変動を数値で表しています。
例えば、指数が100から110になれば、標準的な建物を建築するために必要な工事原価が、基準時点よりもおおむね10%高い水準になったことを意味します。
木造住宅の建築費指数は、2015年1月の99.8から2024年7月には138.5となりました。
2015年の平均を100とすると、138.5は基準時点を38.5%上回る水準です。2015年1月の99.8と直接比較した場合は、約38.8%の上昇となります。
ただし、これは個別の住宅の販売価格や請負金額が、すべて一律に約38.8%上昇したという意味ではありません。
建築する地域、住宅の規模、構造、仕様、設備、住宅性能、施工会社などによって、実際の建築費は異なります。
あくまでも、同じ条件の建物を建築すると仮定したときに、工事原価がどの程度動いたのかを把握するための指標です。
それでも、約10年間で木造住宅の工事原価が約1.4倍の水準になったという数字は、新築住宅を取り巻くコスト環境が大きく変化したことを示しています。
資材価格、人件費、物流費、住宅性能向上に伴う費用などが増え、土地を購入して新築住宅を建てる場合の総額は、以前よりも大きくなっています。
国土交通省の資料では、既存住宅流通シェアとともに、木造住宅の建築費指数が99.8から138.5へ上昇したことが示されています。
また、建設物価調査会は、建築費指数を「工事価格の動向が把握できる一種の物価指数」と説明しています。
既存住宅は価格以外の面でも選ばれている
国土交通省の住宅市場動向調査では、既存住宅を選んだ理由として最も多いのは、「予算的にみて既存住宅が手頃だったから」です。
既存戸建て住宅では71.0%、既存集合住宅では75.7%となっており、新築価格の上昇が既存住宅の選択に影響していることが分かります。
ただし、既存住宅が選ばれる理由は価格だけではありません。
既存住宅であれば、新築用の土地が出にくい地域でも、希望する立地の住宅を見つけられる可能性があります。
駅や職場、学校、商業施設に近い場所、昔から住み慣れた地域、親や子どもの近くなど、生活条件を優先して住宅を選ぶこともできます。
また、新たに供給される分譲地と比較して、既存住宅には広い土地や建物が残っている場合があります。
同じ予算の中で考えれば、新築住宅を建築するよりも、
- 立地条件を優先する
- 駅や生活施設に近い住宅を選ぶ
- 希望する学区や地域で住宅を取得する
- より広い土地や建物を確保する
- 建物を自分たちの暮らしに合わせて改修する
といった選択ができる可能性があります。
つまり、既存住宅は「新築を買えなかった人が仕方なく選ぶ住宅」とは限りません。
立地、広さ、生活環境などを優先し、建物については購入後に自分たちの暮らしに合わせて改修するという、積極的な選択肢にもなっています。
消費者は、新築注文住宅、新築建売住宅、既存戸建て住宅、既存マンション、既存住宅購入後のリノベーションなどを、同じ住宅取得の選択肢として比較するようになっています。
既存住宅の流通シェアが約4割まで上昇したという数字は、住宅市場が完全に既存住宅へ置き換わったことを示すものではありません。
しかし、既存住宅が新築と並んで比較検討される、無視できない選択肢として台頭していることは明らかです。
変化2 既存住宅を購入した世帯の約7~8割がリフォームを実施
国土交通省の「住宅市場動向調査」によると、既存戸建て住宅を取得した世帯の69.4%が、購入前後に何らかのリフォームを実施しています。
既存集合住宅では、リフォームを実施した世帯の割合は79.1%に達しています。
つまり、既存住宅を購入する世帯の多くが、物件の取得とリフォームを一連のものとして考えていることになります。
ただし、この数字だけを見て、「既存住宅を購入した人の多くが大規模なリノベーションを行っている」と考えることはできません。
実施される工事には、設備交換や内装の更新、部分的な修繕なども含まれています。
すべての世帯が、耐震性能や断熱性能、建物全体の劣化状況を確認したうえで、総合的な改修を行っているわけではありません。
同じ調査では、インスペクションを実施した割合は、既存戸建て住宅で15.5%、既存集合住宅で9.3%にとどまっています。
既存住宅売買瑕疵保険へ加入した割合も、既存戸建て住宅で23.5%、既存集合住宅で15.6%です。
購入前後にリフォームを実施する世帯は多い一方で、
- 建物状況調査
- 劣化状況の確認
- 耐震性能の確認
- 断熱性能の確認
- 改修費用の事前把握
- 瑕疵保険への加入
- 住宅履歴の整備
までが、十分に一体化されているとはいえません。
既存住宅を購入する消費者にとって、本当に知りたいのは、単に「この物件はいくらで買えるのか」ということだけではありません。
購入した後に、どのような工事が必要になるのか。希望する間取りへ変更できるのか。耐震性や断熱性に問題はないのか。購入費用と改修費用を合わせて、予算内に収まるのか。
こうした判断材料が、住宅を購入する前に必要です。
しかし、リフォーム会社や工務店との接点が住宅購入後になれば、購入時点で予算の大部分を使ってしまい、必要な性能向上工事まで費用を回せなくなる可能性があります。
住宅会社や工務店が「購入した後にリフォームの相談を受ける」という位置にとどまっていると、設備交換や内装更新など、限られた工事だけを依頼されることにもなります。
既存住宅市場の拡大は、リフォーム工事の件数が増えるというだけの話ではありません。
消費者が物件を選び、購入を判断する段階から、建物の状態と改修の可能性を示す必要性が高まっているという変化でもあります。
変化3 国の空き家政策が「除却」から「予防・管理・流通・活用」へ
国土交通省は2026年7月8日、令和8年度「空き家対策モデル事業」として、117件の応募から36件の事業を採択しました。
採択された事業には、危険な空き家を解体・除却する取り組みだけでなく、
- 官民が連携した相談体制の構築
- 空き家に関連する新たなビジネスモデル
- 管理不全化の予防
- 相続空き家への対応
- 区分所有長屋の空き室対策
- 新たな居住ニーズに対応した空き家活用
- AIやデジタル技術を活用した空き家対策
- 空き家の流通や利活用を促進する仕組み
などが含まれています。
ここから分かるのは、国の空き家対策が、「危険になった建物を最後に処理する」という段階から、空き家の発生前や管理不全になる前から関与する方向へ広がっていることです。
空き家問題は、建物だけの問題ではありません。
所有者の高齢化、相続人の不在や意見の相違、家財道具などの残置物、登記の未整理、建物の劣化、改修費用、売却や賃貸の判断など、複数の問題が重なっています。
そのため、空き家を流通・活用へつなげるには、
- 相続前の相談
- 所有者や権利関係の整理
- 空き家の定期管理
- 残置物の処理
- 建物の状況調査
- 必要な修繕・改修
- 売却や賃貸
- 解体や更地化
- 店舗、宿泊施設などへの用途変更
- 二地域居住への活用
などを組み合わせて考える必要があります。
空き家事業というと、長期間放置された住宅を取得し、大規模なリノベーションを行って再販売する事業をイメージしやすいかもしれません。
しかし、実際の空き家対策はそれだけではありません。
空き家になる前の相談、遠方に住む所有者に代わる定期管理、売却前の小規模な修繕、解体、更地化、賃貸化、店舗への転用、二地域居住への活用など、事業の入口は複数あります。
国の政策も、一つの大きな工事を生み出すことだけではなく、空き家の発生予防から管理、流通、活用までを地域の中でつなぐ仕組みづくりを重視するようになっています。
「新築が減るからリフォーム」だけでは、利益の出る事業にならない
新築住宅市場の縮小を受けて、「これからはリフォームを始めたい」「リフォーム事業を強化したい」と考える住宅会社や工務店は非常に増えています。
しかし、リフォーム市場へ参入すれば、それだけで新築に代わる収益の柱ができるわけではありません。
一般的なリフォーム事業では、
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