東京ガス・ダイキン・カインズがANDPADと提携 AI時代、工務店・流通店が考えておきたい「顧客・現場データ」の価値

2026年8月20日、アンドパッドは、東京ガス、ダイキン工業、カインズの3社と、それぞれ戦略的資本業務提携を締結したと発表しました。

3社が提携によって目指していることはそれぞれ異なりますが、共通しているのは、現場データとAIを組み合わせ、生産性や施工品質、顧客サービスの向上につなげようとしていることです。

この動きが今後、住宅・建築業界を支える工務店や流通店の競争環境に、どのような影響を与えるのかを考えておく必要があります。

✅東京ガスは、設備の施工・維持管理などの現場におけるデータとAIの活用、生産性向上や持続可能な施工体制の構築。

✅ダイキン工業は、現場データとAIを活用した工事品質、施工体制、工事力の強化。

✅カインズは、リフォームやエクステリアなどにおける施工管理の連携を強化し、施工現場の効率化と品質の安定、顧客サービスの向上を目指しています。

注目したいのは、単に「大手企業が建設DX会社と提携した」ということではありません。
住宅、設備、エネルギー、リフォームなど、それぞれの領域で顧客や施工現場との接点を持つ企業が、現場データとAIを組み合わせ、新たな競争力に変えようとしている最中だということです。

今回の提携だけで、すぐに業界の構造が変わるわけではありません。
しかし、大手企業が顧客・設備・施工・維持管理に関する情報を持ち、それをAIで活用する動きが広がれば、工務店や地域流通店を取り巻く競争環境も変わっていきます。
今回の発表は、その変化を予測するうえで見逃せない動きの一つです。

AIの違いより「AIに何を使わせられるか」の違い

生成AIを導入する企業は増えていますが、AIを導入しただけで、会社が持っていない情報まで活用できるようになるわけではありません。

住宅会社であれば、「顧客情報→商談・見積→図面・仕様→契約→施工・現場写真→引渡し→点検・修繕→設備交換・リフォーム」という一連の情報が、顧客や住宅ごとにつながっていることが重要になります。

どれだけ高性能なAIを導入しても、必要な情報が担当者の頭の中や紙、Excel、個人のパソコン、写真フォルダなどに分散していれば、十分に活用することはできません。
反対に、顧客、住宅、設備、施工、点検、修繕などの情報が整理され、つながっていれば、AIを使って次に必要となる点検や設備交換、リフォームの可能性を考えることもできます。

これからは「どのAIを使っているか」だけでなく、「自社のAIに、何を使わせることができるのか」が、企業の競争力を左右するようになるのではないでしょうか。

工務店は「建てた会社」なのに顧客管理で負ける可能性がある

工務店がこれまで競合として強く意識してきたのは、同じ地域の住宅会社やハウスメーカーだったと思います。しかし、ストック市場における競争相手は、それだけではありません。

ホームセンター、家電量販店、エネルギー会社、住宅設備会社なども、給湯器交換、空調設備、水回り、太陽光発電・蓄電池、エクステリア、リフォームなどを通じて、住宅オーナーとの接点を持っています。

本来、工務店はこうした企業よりも圧倒的に有利な立場にいます。
自分たちがその住宅を建てているため、どのような家族が住んでいるのか、どのような間取りなのか、どのような設備が入っているのか、いつ引き渡したのか、いつ点検したのか、どこを修繕したのかといった情報を持つことができるからです。

ところが、その情報を会社として管理できていなかったらどうでしょうか。
一方で、ホームセンターや家電量販店、エネルギー会社などが、顧客情報に加えて、設備、施工、メンテナンスの履歴までデータとして蓄積し始める。
さらに、そのデータをAIで分析し、設備交換やリフォームの提案につなげるようになれば、工務店が自社で建てた住宅であるにもかかわらず、その後の需要を異業種企業に先に捉えられる可能性があります。

「建てた会社」であることが、そのまま将来の受注を約束してくれるわけではありません。
建てた住宅の情報を会社の資産として残し、継続的な顧客接点につなげられているかが重要になります。

東京ガスの動きは「設備交換の先」で考える

今回、東京ガスが「顧客データをリフォーム営業に活用する」と発表しているわけではありません。
今回発表されたのは、設備の施工・維持管理をはじめとする現場でデータとAIを活用し、生産性向上や価値創出に取り組むという内容です。
そのため、現時点で発表されている事実と、将来考えられる可能性は分けて見る必要があります。

一方で、エネルギー会社が給湯器交換などを入口として、住宅設備やリフォームへ顧客接点を広げること自体は、すでに珍しいものではありません。
そこに「設備情報+施工履歴+維持管理情報+AI」が加われば、将来的にどのようなサービスや提案が可能になるのか。
今回の提携による具体的な影響はまだ見えていませんが、工務店としては継続して確認しておきたい動きです。

流通店の「商流」が変わる可能性がある

地域流通店にとって、今回の提携は工務店とは別の意味を持ちます。
これまで地域流通店は、「メーカー→商社・流通店→工務店・施工店→施主」という商流の中に位置してきました。

流通店が担ってきたのは、商品を仕入れて販売し、現場へ届けることだけではありません。
「誰が、どこで、何を、いつ必要としているのか」。
地域の工務店、施工店、現場、商品に関する情報が集まる「情報の中継点」でもありました。

しかし今回提携した企業は、それぞれ異なる形で施工会社、施工現場、顧客との接点を持っています。
ダイキンは、商品だけでなく施工会社や空調工事の現場との接点。カインズは、顧客、リフォーム、エクステリア、施工現場との接点。
東京ガスは、エネルギー、住宅設備、施工、維持管理との接点です。

こうした企業が施工DX・AI企業と連携することで、流通店を経由しなくても、施工会社、現場、顧客に関する情報を把握できるようになる可能性があります。
もちろん、今回の提携によって、既存の流通店を介さない商流へ移行することが発表されたわけではありません。
しかし、大手企業が現場や顧客の情報を直接把握できる環境が整えば、地域流通店が商流の中で果たしてきた役割も変わっていきます。

流通店としては、その変化を予測するだけでなく、自社が商流の中に存在する意味を改めてつくる必要があります。
工務店への新たなサポート体制を構築するのか。施工店とのネットワークを強化するのか。物流を再設計するのか。
あるいは、これまで蓄積してきた情報を活用して新しい事業の柱をつくるのか。
従来の商流が維持されることを前提にするのではなく、自社がこれから何を担う会社になるのかを考える段階に入っているのではないでしょうか。

【重要ポイント】流通店の役割が「配送だけ」になったらどうなるのか

ここが、今回のニュースから地域流通店に最も考えてほしいことです。
地域流通店には、大きく分けると「商品と情報をつなぐ機能」と「商品を現場へ届ける機能」があります。

もしメーカーや異業種企業が、施工会社、現場、顧客に関する情報を直接持つようになり、流通店の「情報をつなぐ機能」が薄れていけば、商流の中で流通店に求められる役割が、配送機能に偏っていく可能性があります。

そうなったとき、流通店は何で比較されるでしょうか。
安いか、早いか、時間どおりに届くか、小口配送に対応してくれるか。
つまり、配送機能そのものの良し悪しと価格で比較される可能性が高くなります。

さらに問題なのは、物流が今後、最もコストの上がりやすい分野の一つだということです。
ドライバー不足、人件費の上昇、燃料費、車両費、労働時間規制、小口多頻度配送などにより、配送を維持するための負担は今後も重くなると考えられます。

情報という付加価値を失い、最もコストが上がる配送だけを担い、その配送について価格競争を求められる。
この構造になれば、地域流通店にとって非常に厳しい状況になります。
単純に「メーカーに中抜きされるのではないか」と考える以上に、こちらの方が重要な問題かもしれません。

この問題は、地域流通店だけにとどまりません。
流通店が配送価格の競争によって収益力を落としたり、大手企業によるM&Aや系列化が進んだりすれば、その上流にいる建材商社・問屋にとっても、「今後、誰に、どのように商品を販売していくのか」という売り先の問題になります。

一方では、メーカーや大手企業と連携し、顧客・現場・施工に関する情報を持つ流通店が規模を拡大する。
もう一方では、情報を持たず、配送機能だけで比較される地域流通店が厳しい競争に置かれる。
この差が広がれば、地域流通店の再編だけでなく、メーカー、商社、問屋、流通店、施工店まで含めたサプライチェーン全体の再編につながる可能性があります。

今回の提携は、単なるシステム連携のニュースではなく、住宅業界の商流や企業の役割が今後どのように組み替えられていくのかを考える材料として見る必要があります。

流通店も「地域の情報を持つ会社」へ

地域流通店にはすでに多くの情報があります。
どの工務店が何を購入しているか、どのような住宅を建てているか、どの地域に現場があるか、いつ着工するのか、何の商品が使われているか、どの施工店が施工できるか、いつ、何を、どの現場へ配送したかといった情報です。

これらを単なる受発注履歴として終わらせず、「工務店×現場×商品×施工店×物流」としてつなぐことができれば、地域流通店にとって大きな資産になります。

これからの流通店は、「商品を販売して運ぶ会社」だけでなく、「地域の住宅生産に関する情報を持つ会社」へ変わることを考える必要があるのではないでしょうか。
その情報を使って、工務店に必要な商品や施工体制を先回りして提案する。
現場の動きを予測して、受発注や物流を効率化する。
地域に不足している施工機能を把握し、工務店と施工店をつなぐ。
ここまでできれば、流通店は配送価格だけで比較される会社ではなくなります。

ただし、地域流通店が多くの情報を持っていることと、その情報を会社の資産として活用できていることは同じではありません。
受発注履歴は販売管理システムの中、現場情報や施工店との関係は営業担当者の頭の中、配送情報は配車担当者の経験の中というように、情報が分散している流通店も少なくありません。

これまでと同じ属人的な営業、受発注、配車、配送の延長では、せっかく持っている情報を新しい提案や事業に活用することはできません。
「情報を持っている会社」から、「情報をつなぎ、価値に変えられる会社」へ進まなければならないということです。

今回のニュースから確認してほしいこと

今回の提携によって、すぐに工務店や地域流通店の仕事が奪われるという話ではありません。
今後どのようなサービスや商流が生まれるのかも、現時点ではまだ見えていません。
だからこそ、大きな変化が起きてから対応するのではなく、今のうちに自社の状態を確認しておく必要があります。

✅工務店であれば、「自社が建てた住宅の情報を、会社の資産として残せていますか?」「OB顧客への点検、設備交換、リフォーム提案を、担当者任せにしていませんか?」と確認してみてください。

✅流通店であれば、「自社は商品と一緒に、地域の工務店や現場に関する情報を持っていますか?」「もし配送機能だけを求められるようになった場合でも、自社が選ばれる理由はありますか?」と考える必要があります。

そして、両者に共通して確認してほしいのが、現在連携しているシステム会社です。
そのシステムは、データを保存するだけでなく、顧客、住宅、現場、商品、施工、物流などの情報をつなぎ、将来AIで活用できる状態にできるでしょうか。

5年後にも使える形で、情報を残せているか

今回のニュースは、「すぐにAIを導入しなければならない」という話ではありません。
むしろ重要なのは、工務店は「建てた顧客と住宅の情報」を失わないこと。
流通店は「地域の工務店、現場、商品、施工、物流の情報」を失わないことです。

AI時代に大手企業が取りにいっているのは、AIツールそのものだけではありません。
AIを使って価値に変えることのできる、顧客接点と現場データです。

今、自社が持っている情報を、5年後にも使える形で残せているでしょうか。
今回の東京ガス、ダイキン、カインズとANDPADの提携は、それを考えるきっかけになるニュースだと思います。

※本記事は、2026年8月20日にアンドパッドが公表した内容をもとに、工務店・地域流通店への将来的な影響を考察したものです。提携による具体的なサービスや商流の変更が発表されたものではありません。

参考:株式会社アンドパッド「東京ガス・ダイキン・カインズ各社と戦略的資本業務提携を締結」