【第1章】なぜ“DX・建設テック人材”をめぐる争奪戦が始まったのか(市場・制度・労働力の構造変化)
執筆:清水大悟(清水英雄事務所株式会社 代表取締役/住生活産業コンサル)

建設業界では、ここ数年の間に“静かな構造変化”が積み重なり、2024〜2030年にかけてそれが一気に表面化しています。
これまでも「慢性的な人手不足」は語られてきましたが、現在起きているのはそれとは質の異なる――「人材の質的断層」です。
端的に言えば、
・人口が減る
・仕事内容が増える
・業務内容が高度化する
・制度が複雑化する
・デジタル前提の運用になる
という5つの変化が同時に襲ってきています。
ここでは、争奪戦の背景を“人材” “制度” “技術” “社会”の4つのレイヤーで整理していきます。
1. 人材レイヤー:労働人口の急減と、固定観念の崩壊
まず大前提として押さえるべきは、
「若手が来ない」だけではなく「そもそも若手の母数が少ない」という事実です。
建設業の就業者数は約10年で50万人以上減少し、55歳以上が35%を超える一方、29歳以下は全体のわずか10%台にとどまります。
さらに近年、採用の現場では次のような変化が起きています。
1)学生の職業観が大きく変化した
・「働き方の柔軟性」を最重視するようになり、働き方改革は不可避
・建設業の“3Kイメージ”は依然として強く、リブランディングが必要
・デジタル運用が不透明な会社は敬遠され、業務改革とツール選定が急務
2)女性・シニア・外国人の参入が増えた
技能者不足の補完として“多様な働き手”の受け入れが進み、
結果として 「建設=男性中心・現場中心」という構造が崩れ始めています。
つまり、
従来の発想で人材募集をかける時代ではなくなった、ということです。
3)現場の働き方改革が本格化した
2024年4月の時間外労働規制(建設業適用)をきっかけに、
「現場に仕事を寄せる」体制は限界に達しました。
今は、
「現場 × デジタル」
の組み合わせがなければ業務が回らなくなっています。
つまり人材不足は、単に量が不足しているだけでなく、
“質・構造”そのものの問題に移りつつあるのです。
➡ いま必要なのは「現状業務のデジタル化」ではなく、
デジタルによって業務そのものの質を引き上げる発想です。
2. 制度レイヤー:制度改正が“デジタル前提の実務”を必須にした
2024〜2030年にかけての制度スケジュールを見ると、
建設会社・住宅会社・工務店・流通店の実務負荷は、確実に増える方向へ動いています。
・2025年:建築基準法改正
・2026年10月:省エネ適判計算の一本化
・2027年:ZEH基準 改正(GX-ZEH)
・2028年:DXロードマップ、PLATEAU(プラトー)への建築物データ集約フェーズ
・2030年:新築住宅ZEH水準が“最低ライン”へ
一つひとつを見ると単なる制度改正に見えますが、実務には以下のように影響します。
1)必要なデータ量が飛躍的に増加
図面・評価・仕様・一次エネなど、
実務そのものが“データ前提”になります。
2)設計の変更ループが増える
適判一本化では、
基礎断熱や開口部仕様の“最適化”が極めて重要になります。
その結果、
BIMや建築シミュレーションの活用が不可欠になります。
3)対応できる会社と、対応できない会社が二極化
制度を読み解き、改善し、運用に落とせる
「対応人材」
を確保できるかどうかで、企業の明暗が分かれ始めています。 これらのことから制度改正は、
デジタル人材需要を不可逆的に押し上げていると言えます。
3. 技術レイヤー:BIM・建設テックの普及フェーズへ
技術トレンドは、“便利な道具”から“業務の仕組みそのもの”へと移行しつつあります。
1)BIMの本格普及
かつては「大手ゼネコンのもの」という印象が強かったBIMですが、
現在は地域ゼネコン・中堅ビルダー・設計事務所まで導入が広がっています。
BIMマネージャーは全国的に“売り手市場”で、
人材単価は2年前と比べて1.2〜1.5倍に上昇しています。
一方、地場工務店・住宅会社では、
BIMデータを掌握できていないことが新たな課題になっています。
2)現場のデジタル化(電子黒板・ドローン・3D計測)
デジタル化は、
・若手が参入しやすい環境
・労働時間の削減
・技能者負担の軽減
につながっており、すでに実効性が確認されています。
3)建設テックの導入が“採用力”に直結する時代に 若手人材は「アナログな会社」を選びません。
つまり、
技術投資=採用力の向上
という構造に変わっています。
4. 社会レイヤー:価値観の変化と“働き方の多様性”
社会全体の価値観の変化が、確実に建設業にも波及しています。
1)働き方の柔軟性が“最低条件”に
・リモート可の設計
・時短勤務・フレキシブルな勤務
・週休2日(最低条件)
といった、働き方の柔軟性が事実上の必須条件になっています。
2)多様な人材への期待値が上昇
女性・シニア・外国人の活躍領域は過去最大に広がり、
「建設業の仕事=特定の人しかできない」という固定観念は崩れつつあります。
まとめ:争奪戦は“もう始まっている”
DX人材・BIM人材・建設テック人材の争奪戦は、
「これから始まる」のではなく、
気づいていない企業を置き去りにして、すでに走り出しています。
そしてこの争奪戦は、
・技術投資
・制度対応
・SNS採用
・働き方改革
・属人化の解消
といった領域とすべてつながっています。
そのため、後から追いつくにはコストも時間も膨大にかかります。
次章では、
「現場 × デジタル人材」とは何か
を掘り下げ、職種・スキルセット・給与レンジまで詳しく整理していきます。